あるルポライターの手記

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 気づけばすぐ真上にあったはずの天井はとっくに見えなくなっていて、私たちは知らないうちに地下へ歩かされていたらしい。狭い空間で足場も安定しないので、私たちには地下へおりているという感覚が全くなかった。 「こちらです」  ユ・リィが巫女の言葉を通訳して、先へ案内する。鍾乳洞の奥に木で作られた扉があり、その隙間から光がもれていた。  巫女がまず扉ごしに二言三言言葉を発すると、その中から反応があったのか、頷いてうやうやしくその場を下がった。それが了承の意であったらしく、ユ・リィは我々に向かって小さく頷いた。 「天使様のお返事があったようです。この中でお話ができます」  私たちはたたずまいを直し、その重々しい扉を開いて中へ入った。  いよいよ、噂の「天使」をこの目で拝めるのだ。  扉の中はひらけた空間で、正確な広さはわからなかったが、高級ホテルの宴会場ほどの広さはあったと思われた。中は淡い光が満ちていて明るい。よく見ればそれは明滅を繰り返しており、ツチボタルのように発光する生物のようであった。天井の鍾乳石にそれがくっついて、その光がこの空間を明るくしているのだ。  その幻想的な光景に一瞬目を奪われ、そして、奥にいる人影に目を移す。  そこに鎮座していたのは、美しい少年であった。  上質な絹の布を何枚か素肌にまとって、三、四畳ほどの敷物の上に座り、こちらを見つめる少年。なるほどまさしくこれが天使であろう、と私は納得した。  年の頃は十代の前半であろうか。やや痩せ型で肉の少ない体型がひどく中性的で、そういう意味では、私が「少年」と表現したのは誤りである。天使にはそもそも性別がないという説もあり、彼――あるいは彼女――もまた、性別をもたぬ存在なのかもしれなかった。結局最後まで「天使」の性別をきく機会はなかったため、便宜上、私は彼を少年であると仮定することにする。  また、彼には噂のとおり羽はなかった。見た目が美しいことをのぞけば彼は人間とさしたる違いはないようだった。
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