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消え去った戸に向かって、歩は無意識に呟いた。
ガラガラガラッ
「ふーちゃん、アウトーーー!!」
引き戸が勢いよく開き、帰ったはずの隼人が、再び教室に現れた。
「?!」
「はい、もう言葉うつってる! 負け! ありがとうばあちゃん!俺、やったで!」
西だろう方角に向かって、隼人はガッツポーズを決めている。
目を真ん丸にして驚き切った表情で、歩は隼人を凝視した。
「ず、ずるい!!ずるい!!帰った振りするなんて、ずるいです!!無し無し!!」
大喜びしている隼人の制服を、あわあわしながら引っ張ると、隼人はお腹を押さえてケラケラ笑っていた。
「あー、俺もびっくりした。ふーちゃんにもう、うつってくれてるとか思って無かったから……めっちゃ嬉しくてつい」
(うつってるのは初日から、だけど……)
一週間前既に『ほな』と言っていた事を歩は思い出したけれど、内緒にすることにした。
「ごめん、確かにずるいな。卑怯なんは性に合わん。ノーカンにするわ。やけど、信じて。帰った振りして様子窺ってた訳ちゃうねん」
「だったら、何で?どういう事ですか?!」
恥ずかしさを隠して、歩は隼人に詰め寄る。
「ただ、一緒に帰ってくれへんかなあと思て、戻って来てん。そしたらふーちゃんが」
隼人は指に髪を絡ませ、照れくさそうに掻き上げた。
「なあ、勝負は明日からにしても、さっきの無しな分をちょっと生かして……もしよかったら、今日だけ、ちょっとだけでも聞いて貰って良い?
俺と一緒に、帰ってくれへん、かな?」
珍しく眉根を寄せて俯いた隼人の姿を見て、歩は睫毛をゆっくり伏せ、隼人の袖口を軽く掴む。
「……ええですよ」
-おしまい-
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