8日経ったで

5/5
前へ
/10ページ
次へ
 消え去った戸に向かって、歩は無意識に呟いた。   ガラガラガラッ   「ふーちゃん、アウトーーー!!」  引き戸が勢いよく開き、帰ったはずの隼人が、再び教室に現れた。 「?!」 「はい、もう言葉うつってる! 負け! ありがとうばあちゃん!俺、やったで!」  西だろう方角に向かって、隼人はガッツポーズを決めている。  目を真ん丸にして驚き切った表情で、歩は隼人を凝視した。 「ず、ずるい!!ずるい!!帰った振りするなんて、ずるいです!!無し無し!!」  大喜びしている隼人の制服を、あわあわしながら引っ張ると、隼人はお腹を押さえてケラケラ笑っていた。 「あー、俺もびっくりした。ふーちゃんにもう、うつってくれてるとか思って無かったから……めっちゃ嬉しくてつい」 (うつってるのは初日から、だけど……)  一週間前既に『ほな』と言っていた事を歩は思い出したけれど、内緒にすることにした。 「ごめん、確かにずるいな。卑怯なんは性に合わん。ノーカンにするわ。やけど、信じて。帰った振りして様子窺ってた訳ちゃうねん」 「だったら、何で?どういう事ですか?!」  恥ずかしさを隠して、歩は隼人に詰め寄る。 「ただ、一緒に帰ってくれへんかなあと思て、戻って来てん。そしたらふーちゃんが」 隼人は指に髪を絡ませ、照れくさそうに掻き上げた。 「なあ、勝負は明日からにしても、さっきの無しな分をちょっと生かして……もしよかったら、今日だけ、ちょっとだけでも聞いて貰って良い? 俺と一緒に、帰ってくれへん、かな?」  珍しく眉根を寄せて俯いた隼人の姿を見て、歩は睫毛をゆっくり伏せ、隼人の袖口を軽く掴む。 「……ええですよ」 -おしまい-
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加