8日経ったで

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 放課後、誰も居ない教室。歩は残っている。  この一週間、恒例になっていた。  ”飴ちゃん”を貰う儀式。  隼人も教室に残っているのに、他愛のない会話の後、飴をくれずに帰りかけたから、業を煮やした歩が、隼人の手首を掴んだ。 「え?どないしたん?」 「いえ、あの……飴……」 「あー、飴ちゃん?」 「はい、そうです。今日はくれないのかなと思って……」  歩は勇気を出して掌を出してみせた。 「あー、あげへんで!」 「へ?」  予想外の返事が、隼人から来た。しかも冗談でもなさそうな、純粋な上品スマイルで。  歩は目をぱちくりと見開き、口をポカンと開け、呆然とした。 「うわっズガーーンくる!なんちゅう破壊力。でも、あかん。そんな可愛い顔しても、あかん」  隼人は首を横に振っている。 「何もせんと、タダで物貰えるおもたら、大間違いや。今までみんなに、ふーちゃんは何でも何もせんと貰えたんやろ?」 「ど、どういう意味ですか?!」 「もう、俺の世話係辞めたんやろ?お礼に飴ちゃんあげて来たから、今日は、あげへん」 「そんな……」  初めて貰った時、飴 ごとき と思った癖に  今その、ごとき が貰えないと聞いて、酷くショックを受けている歩が居た。 また、ショックを受けている自分に驚いている。 (何で?飴貰えないだけで、こんなに悲しいんだ?)  飴なんて何処にでも売っている。  そもそも飴なんて…高校生にもなって貰っても。そんなに好きでもないし。だけど…… (何で?!欲しい!欲しい!欲しい!)  沸き立つ感情が抑えられない。  隼人の手から一つ一つ大事そうに自分の手に、キラキラの金色の粒が渡されて、それは、宝石じゃなくただの飴なのに。  歩にとって、宝石なんかより価値がある物に感じてしまっている事に気付いた。 「じゃあ、世話係、続けたら……くれますか?」  歩は隼人の顔を見上げて、真剣な顔で告げた。  今度は、隼人が驚いた顔をした。  この一週間不敵な笑いで、四六時中共にして来た隼人のびっくりした顔を、歩は初めて見た。 「そんな、欲しいん?」 「欲しい……です」 ”特別やで”    キラキラ輝く金色の物体と共に、キラキラ笑顔で隼人に告げられた一言が脳裏をよぎる。 (僕は飴というより、隼人の”特別”が欲しいのか?)  歩は自分が解らなくなった。 「ほんなら、明日からも……俺の、世話してくれる?」  考え黙りこくった歩は、突然隼人に問いかけられ、咄嗟に頷いた。 「有難う。ほんまに嬉しい」  ぼーっとしている歩に隼人は近づき、歩の顎を掴む。  ぽいっ  うっすら開いた歩の口に、金色の粒が放り込まれた。
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