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「トウマさん……あの、少しだけ宜しいでしょうか?」
「どうされました?」
「いつものトウマさんなら、エン兄様と一緒に私を止めたはずです。杞憂だったら良いのですが、この戦は……」
「そこに気付かれましたか。軍師は最悪の状況を考えて行動します。そして、イツキの動きは考えられる最悪の状況でした。余計な心配をさせない様に黙っていましたが、いくら何でも侵攻が早過ぎるのです。シキが捕らえられるのを予測していたと言っても過言ではありません」
「予測していた?」
「仮に、この状況を予測していた人物がイツキの軍にいるとします。その人物が知国に攻める素振りを見せ、光国へと無傷の軍を率いて攻め込み、体制が整わない内に全てを終わらせようとした……こう考えれば辻褄が合います。各国が混乱している今ならば、エン様とレナ様を捕らえ国王を名乗る事も可能でしょう」
トウマの予測通り、イツキの後ろには影を潜めていた男の姿があった。
それを知る術は無く、得体の知れない不安だけがレナの心を黒く染める。
「ちょっと驚かせてしまいましたね。ですが、ご安心下さい。軍師の一族の名に懸けて勝利に導きます。そして、全てが終わった後に大切な話をさせて頂きます」
「大切な話……ですか?」
「ですから、ご自身の安全を最優先させ、怪我無き様にお願いしますね」
不安な心は何処かに走り去ってしまい、代わりに胸の鼓動が高鳴った。絶対に違う、そんな事をトウマさんが……そう思っても、期待してしまう年頃なのだろう。
「あっ……えっと、その……わっ、分かりました。で、では、私も準備しますね」
レナは顔を真っ赤にして走り出す。
幼き頃に思い描いた幻想国。
手を伸ばせば届きそうな状況で、最後の壁が立ち塞がる。
レナを取り巻く争いは、まだ終わらない。
そして、残された謎がすべて明らかになる。
【第七章 完】
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