1人が本棚に入れています
本棚に追加
聞こうとはしなくても、勝手に耳に入ってきた。
近くに座ったのは、どうやら恋人同士なのか
男女の声がする。
「さっき、何て言おうとしたの?」
「……」
「言ってくれないと、わからない……」
「俺、就職先、決まった」
「え!嘘!すごい、良かったね」
「……ん」
「どうしたの?元気、ないね」
女の子の声は凄く明るくて、声だけできっと可愛い子
なんだろうなと思えた。
彼の声も、私にはどこか懐かさしさを感じさせるものがある。
二人の会話ははっきり聴こえないけど、
随分と長く付き合っていそうな雰囲気を晒していた。
「それがさ、地元じゃないんだ」
「え、どこ?」
「……隣町」
「わ、凄く遠いのかと思った」
「うん」
「あまり、気が進まない?」
「いや、俺さ……」
「……うん」
「ごめん、お前とこの先続けていく自信、ない……」
「な、なんで?どうして?何かあった?」
「俺はさ、就職決まって働くだろう、
けどお前はさ……まだ大学生だし……」
「そんなの……」
「だから、悪い」
「悪いって、何?」
明らかに……別れ話をしてる……ようだった。
彼の方は声も低めにゆっくりだけど
彼女の方は次第に口調が尖っていく。
私はこれ以上聞き耳を立てているのが申し訳ないような
勝手に気まずくなった。
最初のコメントを投稿しよう!