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彼女の涙の理由
「ただいま」
キッチンに立って洗い物をしていた私は、その手を一度止め、ジャーと水で手についた泡を流し、タオルで拭いた。
ドアのところまで、早歩きで行き、顔を出す。
「おかえりなさい」
私の顔を見て、「ただいま…」と再び微笑みながら言う彼。
靴を脱ぎ、床に足をつける。
はーぁとため息を吐く彼に、「お疲れ様」と言うと「あー」と応える。
「先にお風呂に入る?」
「うーん…うん」といつも通りの曖昧な答え方。
「入ってる間に夕食の準備しとくから」
「…うん…」
これもいつも通りである。
それから、とことこと彼がお風呂に向かっていく。
それを確認した私は、再び、キッチンの前に立ち、ジャーと洗い物を急いでやり、ガチャガチャとまな板の上で野菜を切ったり、調味料で味付けを整えたりして、夕食の食卓を整えていた。
すると、暫くして、とことこと風呂から上がってきた彼は、テレビの電源を付け、椅子に座った。
テレビに目が向いている彼。
ガチャガチャ、ジャージャー…
そして…
「出来ましたよ」と私は彼に声を掛けた。
すると、テレビを消した。
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