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「…捨てないよ。
捨てるわけないじゃないか…
30年生きてきてやっと見つけたんだから。
鉄の扉で頑丈に閉じられた俺の心を一瞬で開けてしまう人間は、きっと今までもこの先も詠美しかいない。
不思議な事ばかりだよ…
一目ぼれとか心を掴まれるとか、そんな事は戯言だと思ってから。
俺は子供の頃から、神様に見放された人間だと思ってた…
神様なんてこの世界には絶対存在しないし、そう思える事も一つもなかった。
でも、今は、違う…
神様にもしお礼を言えるのなら、俺は百回でも千回でも言うよ。
詠美を俺の元に送ってくれて、本当に本当にありがとうって…」
詠美は抱きしめられたままミンジュンの香りを胸一杯吸い込んだ。
いい匂い…
今日はそれにお酒の匂いも混ざって、私の心も体もとろけてしまう。
でも、詠美の頭の中に、小さいけれど根深い不安が隅から離れない。
その事を口に出そうとすると、先に涙がこぼれてしまった。
「ミンジュンさん…
私… ミンジュンさんを愛し過ぎてしまうのが怖い…
今は、すごく幸せだけど…
先の事を考えると、不安の波が襲ってくる…」
詠美はその先は口に出せなかった。
韓国と日本という距離でいえばそんなに遠くない国。
でも、純粋な心と情熱だけで結ばれるには、とてもとても遠い国。
詠美は韓国という国をよく学んだからこそ知らなくていい事まで知り過ぎた。
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