第1章

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「セイアッド・ヴァイス博士、ですか?」  そう無邪気な声で問いかけながら男のほうから近づいてくる。 「……ああ、そうだ。で、お前は誰だ?」 「セイアッド、って確か、『月』って意味でしたよね。科学者っぽいな」 「お前の名は?」 「セイアッドと呼べばいいですか?」 「長いからヴァイスで。あと、『さん』を付けろ。俺はお前より歳も地位も上だ」 「よろしくお願いします。ヴァイス」 「この野郎……。で、なんだ。ひょっとしてお前、名前ないのか?」 「残念ながら。よかったら私に名前付けてくれませんか?」  ペットじゃあるまいに。  少し間があって、科学者は嘲笑を浮かべる。 「ほう、俺に名付けさせるとは飼い殺される覚悟でもあるのか?」 「殺されるのを心配すべきなのはあなたのほうでは? 名前、何でもいいですよ」 「じゃあ、『ラット』」 「いいですね」 「『ドブネズミ』という意味だが」 「『ゴミ』よりマシでしょう」
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