バチ当たりロンリー・デイズ

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 ニューポートアイランドの特徴は広大なスラムだ。  2010年代前半、神戸港湾地区への更なる企業誘致を目的に始められたこの巨大な人工島計画は、その数年前に閉鎖された神戸空港跡地を大幅に拡張すると言う形で進められた。  入札に参加した企業の中には海外、特に中華資本の企業が多く見られた。元より海外企業の誘致をその主眼に置いていただけあって行政からしてみれば願ったり叶ったりには違いなかったのだが、いざ蓋を開けてみれば企業間開発競争と言う名の中華マフィアと地元ヤクザの武力闘争のお陰で最初から治安は無茶苦茶。東西南北の4区に分かれているその半分が、日本三大危険地帯なんて物に列挙されるほどの糞溜まりに成り果てている。政府のお墨付きを得たメディアの過剰宣伝の成れの果てが、オフィス街で燦然と輝く高層ビルと、貧民街のさびの垂れるトタン屋根のコントラストだった。夕立、排ガス、ごみ集積場のカラスの群れ。島最大の商店街にして、事実上赤線地帯の皆川通りは特に酷い。撃った撃たれたの騒ぎが連日続き、県警ですら迂闊に手が出せない無法地帯。そんな地上のカオスの外れに、僕の家は位置していた。  おれは楠本章。去年島の外にある高校を卒業して、無事フリーターになったどこにでもいるような「最近の若者」だと自負している。少し柔道に自信のあるぱっとしない19歳。昔親戚のおっさんとしてたお絵描きが高じて、web広告やちょっとした看板なんかのデザインで小銭を稼いでいる。実家は昼間から売人が「葉っぱ」を売ってるゲーセンの隣のアパートで、出ていく予定は今のところ無い。一階はコインランドリー兼クリーニング屋だったが、ちょっと前に店主が蒸発して潰れた。そんな感じ。  家にはめったに帰ってこない親父と住んでいる。さっきもちょっと言ったけど、親父は兵庫県警の刑事だ。別居していた母さんは4年前に死んだ。控えめに言っても綺麗な人だった。小学校の頃はよく神戸まで会いに行っていたものだ。月に一度、母子水入らずの昼食会。親父は決して会おうとしなかっから、子供心ながら何か事情があるのだろうと理解していたつもりだったが、特に不便は無いから結局最期まで聞かず仕舞いだった。だからこそ、母さんが交通事故でぐちゃぐちゃになって死んだとき、病院で気が狂ったように泣き叫ぶ親父の姿を見て驚いた。結局、親父があの美人の母さんをどう思っていたのかは、今でもよくわからない。
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