バチ当たりロンリー・デイズ

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 雨は嫌いだ。  排ガスが地表近くに溜まって臭いから。あれは体に悪い。喘息持ちの人間にとってこの島は地獄だろう。一度来てみたらいい、常軌を逸しているのが良く分かる。  冬との境目が分からないほど曖昧な春が足早に通り過ぎた後、今度は南国顔負けのゲリラ豪雨を引き連れた、けったいな梅雨の季節がこの島を訪れた。通りを行き交う資材満載のトラックの隊列。昼間から地下道に消えて行くチンピラや族の集会。山積みになったゴミ置き場のすえた臭いとダミ声のカラス。腐ったトタンから滴る埃混じりの雨水。毎年この時期は憂鬱だ。スラムの鉄筋が腐ってい行く音が聞こえて来そうで。そしてその臭いは、体を内側から腐らせそうで怖かった。  すさまじく気の早い台風第一号が台湾のほうに流れていったその日は、北西から流れてきた雨雲が朝っぱらから通常運行の弱い雨を降らせ続けていた。こんな日はいつもなら部屋にこもって野球中継でも見ているのだが、その日は大阪市内まで新しいタブレットと薄型有機ELディスプレイを買いに行く用事があった。耐久性の高い日本製は確かに高品質だが、何処にでもいるようなアマチュアデザイナーの僕にはそんなもの必要ない。少々質は落ちるがほぼ半額の韓国製を4枚まとめ買い。3枚は転売用だ。  日本橋は天候に関係なく別世界だ。去年おれが依頼を受けて描いた看板を掲げたメイド喫茶の前で 、オタク共がカバみたいに口をあけてメイド達と記念撮影している。そのすぐ隣では、異様に息を荒げた冴えない中年親父が女に何度も頭を下げていた。近寄りたくも無い世界だが、自分の作った物がそれなりに評価されて、それで飯が食えているってのは悪い気分ではない。
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