バチ当たりロンリー・デイズ

6/25
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
 ニューポートには阪急電車が乗り入れている。かつては神戸空港までモノレールが通っていたらしいが、買収されたか、そんな理由で姿を消している。地下鉄で梅田に向かい、そこから特急で30分。三宮で乗り換え、各駅停車で連絡橋を渡るルートだ。夕方以降客ゼロ。あの腐ったスラムは、元々あそこのオフィスビルで働く金持ち共や、その家族のための住居として開発された。だが、神戸や大阪からも遠くなく、交通の便も最悪な上に企業間闘争でえらいことになっていたあんな場所に住もうなどと考える馬鹿は皆無で、その結果が今の糞溜まりだった。ガタガタに値落ちしたアパートに流れ着く最貧層。利権と欲望が生み出した、この世の矛盾の生きた見本。お陰で帰りの電車はいつも空いている。この日もその例に漏れる事無く車内は閑散としていた。おれはショルダーバックの中のディスプレイに折り目が付かないように注意しながら、少々埃臭い褪せた赤紫のベンチシートを独占している。窓を打つ雨の音。その向こう側には、黒く夜に染まる大阪湾と、ニューポートの青白くライトアップされた卒塔婆の群れ。その光にくり貫かれた足元の闇は、島を潤す腐葉土としてのスラム。行政は排除したいに決まっているが、それをしてしまったら経済活動が無くなり島自体が滅びる。つまり、ここは事実上の自治区なのだ。そら無法地帯にもなるわな。  腕時計に目をやる。8時15分。あと2駅、10分後には僕はニューポートのプラットホームの上に降り立っている。有名なスパコンの研究機関のある駅を通りすぎ、人工島口と言う無人駅に停車している間、ケータイで気象情報を確認した。午後9時以降の降水確率は70パーセント。甲子園での阪神対中日の試合も雨天中止。家にいなくてよかった、と内心安心していると、ほとんど形式的に開いているだけの右隣のドアからそいつが乗り込んできた。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!