五章 激情と死骨

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「身体を起こせるか?」 「……」 「タクミ?」 「っ……は、はい」  本能がこの男に逆らうなと警告した。彼の眼がそうさせたのかもしれない。明らかに一般人とは違うその眼に、タクミは委縮した。だが彼を怒らせたくはない。タクミはすぐに起き上がると、足を床に投げ出し、ベッドに腰掛けた。 「大丈夫か?」 「……はい」  思いの外優しいその声に、タクミは伏せていた視線を上げる。正面から男を見るがその顔に覚えはない。彼は自分を知っているようだが、タクミには見当がつかなかった。この男はいったい誰なのだろう。  疑問が顔に出たのか、男はタクミの髪を一撫でし、言った。 「俺は高崎だ」 「たかさき…さん?」 「ああ、久しぶりだな」  高崎はそう言ってタクミに微笑んだが、やはり彼に覚えはない。不安と警戒心からタクミは距離をおこうと身を引くが、それよりも早く高崎の手がタクミの黒い首輪を掴んだ。 「よく似合っている」 「……っ」 「飼い犬にはお似合いだな」 「俺は飼い犬なんかじゃない……!」  タクミは首輪を掴む高崎の手を振り払った。その行動に高崎は不思議そうな顔をしたが、何かに思い当たったのか、喉を鳴らして嗤った。 「そうか……まだ、そこまでしてないのか」 「?」 「まあ良い」  高崎はタクミのシャツの合わせ目を握り、一気に引き裂いた。弾け飛んだボタンがベッドや床に飛び散る。引きつれたような痛みに、タクミは顔をしかめた。  高崎はタクミの胸のピアスを指し、言った。 「これは元からか? それとも、あいつの趣味か?」 「……無理矢理着けられた」 「成程」  ピアスによって強調された突起を刺激しながら、高崎は続けた。 「反応している」 「やめっ、あぁ……っ」  タクミは高崎を押し返そうと両腕を動かすも、スーツの下に隠された強靭な肉体はビクともしなかった。
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