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「うるさい! お前がズルしたせいだ!」
その顔がムカついて、気がついたらタクミは無意識のうちに弟を突き飛ばしていた。柔らかい砂に頭から倒れた弟に怪我はなかったものの、突き飛ばされた衝撃でわんわんと泣き出した。
「あ、ごめん。だいじょうぶ?」
タクミはすぐに弟を抱き起すと、服に付いた砂を払う。
「もう泣くなよ。男は泣いちゃダメなんだぞ」
「兄ちゃんのバカぁ」
「バカじゃない!」
「兄ちゃんなんてきらい」
弟はえぐえぐと泣きながら下を向いた。タクミは困った。弟を突き飛ばしたのは完全なる八つ当たりだ。それでも、ここまで泣くとは思わなかった。
弟の宥め方が分からなくて悩んでいると、ふと母の手を思い出した。タクミは弟の身体を抱きしめて、小さな頭をわしゃわしゃと撫でた。
「オレが悪かったよ。ごめんな」
「……いたいことしない?」
「絶対しない。オレ兄ちゃんだもん」
「……マコトのこと好き?」
「大好きだよ。これからもずーっと好き」
タクミがそう言うと、弟もぎゅっと抱きついた。
「ぼくもタクミのこと好き!」
「おい! 呼び捨てにすんなよ。兄ちゃんって呼べ!」
その後母のもとに戻ったタクミたちは、こっぴどく叱られた。
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