五章 激情と死骨

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 予感はあった。突然監禁場所に現れた高崎は、手土産と称して以前頼んでおいた拘束具を持ってきた。予告もなく高崎が姿を現すことは今回が初めてで、マコトは彼の対応に戸惑った。高崎の協力なしで、タクミを監禁し続けることは不可能だと言ってもいい。大事な協力者であり恩人でもある。  だが、そんな高崎であっても、愛しい兄の姿を見せたくはない。  どうすれば高崎は帰ってくれるのだろう。そのことばかり考えている間に、気づけば高崎は姿を消していた。完全に油断していた自分に怒りが湧く。  マコトは自室を飛び出し、タクミの監禁部屋へと駆けた。長らく人が住んでいないこの場所は、少し走るだけで床に溜まっていた埃が舞う。何度か噎せたが、構っている余裕はない。実際はそれほど走っていなくても、怒りと焦燥に囚われたマコトの心臓は、うるさいほどに鼓動を刻む。  監禁部屋に到着したマコトは、ドアノブに付けられた南京錠を解錠して扉を開けようとした。だが、何度やっても上手くいかない。焦りのため視野が狭まっていたマコトはすぐに気づかなかったが、扉の鍵は開いていたのだ。  その事実を知った瞬間、マコトの中にくすぶる悪い予感が現実のものになりつつあると実感した。  ドアノブを握る手が震える。この扉の先に広がる光景は、決して受け入れられるものではないだろう。高崎の口振りから、タクミとは顔見知りだという事実は聞いていた。彼の目的は未だに分からないが、自分を裏切ってタクミに手を貸す可能性も十分に秘めていた。  もしも今日、高崎がタクミを連れ出したとしたら、この扉の先にあるのは人気のない無機質な空間だけ。マコトは扉を開けたくなかった。
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