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ドアノブに掛けた手を離そうとした瞬間、部屋の中から吐息のような話し声が聞こえた。まだタクミはここにいる。希望を見つけた気がした。
マコトは再度ドアノブに手を掛け、ゆっくりとそれを回し、扉を開けた。音はほとんど立てなかったと思う。だが目の前に広がる光景は、マコトの想像を遥かに超えた酷いものだった。
タクミのシャツの前を引き千切り、現れた乳首を愛撫する高崎。身体中を赤く染め、喘ぎながら高崎に身を任すタクミ。全てが信じられなかった。
半ば放心状態でこぼれた言葉は、あまりにも弱弱しくて儚いものだった。
「何してんだ……?」
その声に反応してタクミが顔を上げ、両者の視線がぶつかる。タクミの顔は一気に青褪めたが、身体の火照りは簡単には治まらないらしい。淫らな兄の姿に、マコトは忘れていた怒りを再び双眸に宿した。
タクミとの距離を縮める。タクミの前にしゃがんでいた高崎は、マコトの気配を察知して立ち上がると、彼に道を譲り自分は壁際に立った。どうやら傍観者に徹するらしい。高崎に聞きたい事は山ほどあるが、最優先はタクミだ。
また一歩距離をつめる。高崎がその場を離れてから、タクミはすぐさま肌蹴たシャツの合わせを直そうとする。だがボタンは全て高崎が引き千切ってしまった為、完全に身体を隠すことが出来ない。合わせを持ったまま身体を縮めている間に、マコトはタクミの正面に立った。
タクミは罰を受ける恐ろしさを知っている。マコト以外の人間に身体を許したのだ。無事に済む話ではない。マコトの手が首筋へと伸びる。タクミは身をぎゅっと固めた。マコトの指は喉を通って下へ伝い、赤く張りつめた乳首をトンと叩いた。肩が竦む。でも大した刺激ではない。タクミは身体を縮めたまま一言も漏らさなかった。
マコトも言葉を発さずにタクミの身体を点検していく。その作業が終わると、マコトはまだ部屋に残っている高崎へ声をかけた。
「出て行ってくれませんか」
「何故?」
高崎は人を小馬鹿にしたようにクスりと笑い、首を傾げて逆にマコトに聞き返す。その些細な仕草が、今まで沈んでいたマコトの怒りを呼び起こした。
「早く出てけって言ってんだ!」
マコトが珍しく声を荒げた。普段は冷静沈着で感情のコントロールが巧いマコトは、滅多なことで感情を露わにしない。少なくとも今まで過ごしてきた十数年間は。
マコトの怒りが高崎に向いている間にタクミはベッドから降り、少しでも距離を置こうと壁際まで逃げた。鎖が届くギリギリのラインまで後退る。長さの限界まで達すると、タクミは両手で頭を抱え小さくうずくまった。
張りつめた空間で次に聞こえたのは、軽い靴音と扉が閉まる鈍い音。高崎が出て行ったのだと分かった。
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