571人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺はずっと昔から兄さんが好きだった。はじめは家族として、それから兄弟として。でも、兄さんは俺のこと嫌いで……俺のこと避けるようになって……。でも、それでも好きだった」
視線の先にある兄の目蓋は閉じられたままだ。マコトはわずかに開いたタクミの下唇に、恐る恐る親指を這わせた。すっかりかさついていて、一部ひび割れている所もある。その乾いた唇に舌を這わせて自らの唾液で潤したい衝動に駆られたが、マコトはじっと耐えた。
今は肉欲よりも兄と対話する時間が欲しかったのだ。
「たぶん……」
マコトはタクミから視線を外して俯いた。何となく面と向かって話をしたくなかったからだ。
「兄さんが女とヤっている所を見なくても、俺は兄さんに欲情したし、ひとりで抜いていたと思う」
下肢が熱くなってきた。こんなにボロボロになった兄を見ても、まだ犯してやりたくなる。こんな自分は嫌だ。可愛い弟でいられたらどんなに良かったことだろう。でも、もう取り返しのつかない所まで来てしまった。
「……タクミ……って呼んでも良い?」
「……」
「答えてよ……」
マコトはタクミの手を取り、それにすがるように自らの頬へと押し付けた。いつもは冷たい兄の手がわずかに温かく感じる。
しばらくして、マコトは自分が泣いているのだと知った。
最初のコメントを投稿しよう!