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どれだけの時間そうしていたことだろう。頬に当てていた兄の手がピクリと動いた。マコトはハッとして視線を上げる。タクミは虚ろな瞳でマコトを見ていた。
「に……兄さん……」
いつから起きていたのかと問いかける前に、タクミは声を発した。
「マコト……」
「……ッ」
かすれた声で名前を呼ばれて、胸が締め付けられるような苦しさを覚えた。
タクミはその後も何かを呟いたが、発する声は弱々しくて聞き取ることが出来ない。
「何……?」
マコトは身を乗り出しタクミの口元に顔を寄せた。
「……いこう」
「え?」
タクミの右手がマコトのシャツの裾を掴む。思いのほか強い力に、マコトは上半身だけではなく片足もベッドに乗り上げることになった。
「行くって……どこに?」
今にも口づけられそうな兄との距離に、マコトはたじろいだ。そうでなくても兄の昏い瞳には妙な迫力があって見る者を委縮させる。
今まで見たことのないその輝きに、マコトは強烈に惹かれた。
「一緒に……いこう……」
「一緒に……?」
兄からかけられた言葉は嬉しいはずの言葉なのに、なぜだか違和感を覚える。兄の真意が全く分からない。何か別の目的があるのだろうか。
だがマコトの思考はそこで遮られた。タクミがマコトに口づけたのである。兄から求められたのは初めてだった。
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