藁の家

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アパートがアクセサリーに埋もれて狭くなってきて、私は真壁先生にまた相談した。 思い切って一軒家の購入を考えているというと、すぐに物件を探して資料を持ってきてくれた。 アクティブというか…過保護というか。 セキュリティーがしっかりしていて、研究所に近いところがいいと、まるで自分の家を探しているかのような注文を不動産屋でぶちまけたらしい。 思わず笑ってしまった。 「初めて笑ったね」 何度会っても笑えなかった私が、真壁先生の前で初めて笑った日だった。 だからかもしれない。真壁先生が選んできた資料の中から、その時手に持っていた物件に決めたのは。 アトリエがあって、6LDKの築18年のまだ新しい物件を思い切って購入した。 大きな買い物で研究の協力費用はほとんど空っぽになった。 かろうじて残っていたお金で家具を買い揃えて、私は自分の居場所を手に入れた。 死ぬまでにあとどれだけの事ができるようになるのだろう。 生きるために私に何ができるのだろう。 どれだけ真壁先生に迷惑をかけ、助けてもらうのだろう。 生きているだけで荷物になるのに、真壁先生は私を人間として扱ってくれる。 私は真壁先生に恩を返さなきゃいけない。 私を生かしたことに意味があったと真壁先生が思ってくれるように、足跡をちゃんと残さなきゃいけない。
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