紅い部屋

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きれいな女性だった。 私を見て何かを訴えているようだった。 でも私にはそれに応えてあげる術もなければ、声を掛けることさえできない。 女性の自由が利かなくなったのを確認すると男はこちらに近づいてきた。 私の顔を覗き込み、顎をつかむ。 「今日こそは一緒に食事をしよう」 喉がヒクヒクと痙攣する。 男にとってはそれすらも歓びだった。 「じゃあ、準備するから大人しく待ってるんだぞ」 そう言ってドアの向こうへ消えていった。 足音が遠のき、私と彼女は部屋の中、二人きりになった。 だからと言って何かを話せるわけじゃない。 彼女は薬で身体の自由も利かなければ、声を出すことさえ叶わない。私は縛り付けられて彼女を助けることもできなければ、声すら出ないのだから。 ただ二人とも通じ合うように涙を流していた。 お互いの気持ちを感じ取り、不安と恐怖を共有し、これから起こることを想像しながら怯えていた。 ただ黙って見つめあって泣いていると再び男がドアから入ってきた。 そして部屋の隅のボックスの蓋を開けると、そこからチェーンソーを取り出した。 「クッキングタイムだ」 そう言って紐のようなものを数回引いた。 すると騒音が部屋中に響き渡った。 もう何度となく聞いた音。 この音を聞くたびに頭の中は真っ赤に染まる。 何も考えられない。 ただ赤い色が頭の中を占めた。 チェーンソーの刃が勢いよく回転しているのを私はただ震えながら見ていた。 台の上の彼女は頭をこちらに向けているから、男の姿もチェーンソーの形さえ分からないだろう。 ただ……音だけが彼女の想像力を高め、恐怖で表情が歪んでいた。
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