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男は歩を進め、台に近づいた。
そしてチェーンソーの刃先を女性の右肩のあたりに近づけた。
私は思わず目をつぶった。
何が起こるかわかっているから……。
次の瞬間、さっきまで声を出すことすらできなかった彼女の、低く不気味なロングトーンが耳に届いた。
思わず目を開けてしまった。
彼女と目が合うことはなかった。
白目を剥き、口から泡を吹いていた。
まるで別の生き物だ。
そしてチェーンソーの音は止んだ。
男は切断した腕をつかみ取ると、それを持ってきたトレーの上に置いた。
そしてもう一度エンジンをかける。
もう見ていられなかった。
女性は身体を刻まれる度に低い声を出し、切り落とされる度に意識を失った。
そうして彼女は両手両足を切り落とされてしまった。
部屋中に血しぶきが舞い、私の身体も血を浴びた。
絨毯はまた新たなシミを作り、台の上には赤い血液が溜まっている。
呼吸が浅くなっていることを実感しながら、私は再び指先を動かした。
もうすぐロープが切れる。
このロープを切って助けを求めないと……。
ただ小さな光を求めて爪の先でロープをこすった。
男がトレーに手足を並べている時だった。
不意に両手が軽くなった。
ロープがほどけた。
思わずそれを手のひらで受け止めた。
ロープが落ちた音で男が振り返ることを恐れた。
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