紅い部屋

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しかし、こんなことで安心できない。 私は男から注射器の針を引き抜くと、もう一度瓶から液体を吸い上げた。 そして、その液をさらに男の腕に注入した。 男は痙攣をおこし、しばらくの間バタバタと身体を震わせていたけど、そのうち意識を失った。 私は戸棚にあったロープを手に取ると、男の両手と両足を縛り、首にも縄をかけて戸棚全体に固定した。無理に動けば戸棚自体が倒れてくるように仕掛けた。 そして男のポケットから鍵を探し出すと、台の上に寝かされていた女性を抱え上げた。 両手両足が無いと言っても私は数日間飲まず食わずでいた。身体にうまく力が入らなくて女性を床に落としてしまった。それでも彼女をかばうように自分の身をクッションにして衝撃を和らげた。 部屋の外までなんとか彼女を引っ張り出すとドアに鍵を掛けた。 これで男は出てこれない。助けを呼ぶまで彼女も安全なはず。 そう思った。 そして裸の彼女に何か掛けてあげようと思い、ドアから出てすぐに待ち構えていた階段を駆け上がった。 そのとき気が付いた。 ― この世に神様なんて存在しない― ……と。 目の前に広がる光景に絶句し、目眩を起こした。 真っ暗な世界。 はるか遠くに小さな明かりが見える。 これは俗にいう『夜景』とか『イルミネーション』とか言うやつなのかもしれない。 今まで感じてきた揺れが何なのか、この時初めて気づいたのだ。 海の上……。 波の揺れだと言うことに。
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