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再会
宴もたけなわだった。飲み会スタート時からずっと話し相手になってくれていた女性が、とつぜん「他の人と話したいから」と言って席を離れた。遠ざかる彼女の背中と、ぽつんと空いた隣の席を交互に見やる。ふと、今がチャンスだと思った。席を立つ良いタイミングだ。壁際に座っていた尚人は、誰に断ることもなく座敷から下り、自分の脱いだスニーカーを踏むようにして履いた。気が急いていた。不意に、背中で人の気配を感じた。
「風無くん、ちょっと待ってよ。あそこに座ってる子が風無くんと話したいって言ってるんだけど」
肩を叩かれ、尚人は舌打ちしたい気分になった。歪みそうになる顔に手を当てて、表情を隠す。一応呼び止めてきた相手の顔を確認するが、やっぱり見覚えがない。ヒントとなる髪型もありがちな黒髪、セミロング。服装も至ってふつう。ピンクのカットソーに、短めのふわっとした黒いスカート。男受けしそうな可愛らしいスタイルだ。それが決して嫌といわけじゃなかった。尚人は疲れていた。「あそこ」の子も確認しようとして、その気力を失っていることに気が付いた。
「トイレ行きたいんだよ。漏れそうだから」
わざと焦ったように足踏みをしてみせた。
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