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「遠浅の海だから良かったけどさ――見てて、こっちがヒヤヒヤした」  もう少し前に進んでいたら、ライフセーバーが笛を吹いたかもしれない。  すね毛の男――増田が、尚人の隣でかつ丼を掻き込みながら、しゃべっている。 「泳ぐのうまいな」  見直した、と言いながら、尚人の両肩をぐっと掴んでくる。 「はあ、どうも」  尚人は疲れていた。調子に乗って泳ぎすぎた。海から上がったときには、全身の倦怠がひどくて、ワカメだらけの砂浜に尻もちをついたほどだ。 「ちょっと分けてもらえない? そのかつ丼。お腹が空き過ぎて死にそう」  海で泳ぐと、相当エネルギーを消費するようだ。空腹が過ぎて、頭がくらくらしてきた。 「やだよ。海の家行けば?」  増田は買い物に行った女子グループに、自分の昼飯を買ってきてもらっていた。ちゃっかりしている。 「店まで歩く気力がない」  体育座りをしていた尚人は、自分の膝に顔を突っ伏した。 「尚人くん、わたしの分けてあげようか?」  お腹が空いたと喚く尚人を見かねてか、テントで食事をしていた女の子が、声を掛けてくれる。花柄のビキニを着ていたが、痩せ気味の体にはあまり似合っていなかった。 「えっ? いいの?!」     
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