兄は普通

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 尚人は将生の部屋に入り、タンスの引き出しを開けた。一番上の段には、Tシャツとランニングシャツが、きっちり折り畳んで仕舞われている。 ――俺もアングリ―バードみたいに眉毛が太かったらよかったのに。 そうしたら、鏡に映る自分の顔を見て、「自分の顔だ」と確信できるのに。  すぐに赤いTシャツを見つけ、尚人はそっと引き抜いた。床に広げてみる。赤一色。前身ごろには、アングリ―バードの吊った黒い眉毛、白い目、黄色い口ばしがアップで描かれている。気に入った。 「なんか久しぶりだな。俺の服貸すの」 「俺の服、地味なのしかないからさ。ディズニー込むし」  五十嵐が尚人を家まで送ってくれたときに、「念のため明日は目立つ服を着て来い」と言ったのだ。 「それよりさ、ちょっと聞きたい事があるんだけど」  尚人は一度、言葉を切った。 「俺の顔って、どんなん?」 「ええ?」  やっと将生がキーを打つのを止め、こちらを振り返った。 「五段階評価で四ってところかな。まあまあだね」 「そこそこカッコいい?」 「自信持てよ。きっと明日のデートは成功する」 「もっと具体的に、どんな顔か教えてよ」  兄は失顔症じゃない。方向音痴でもない。初めて行く場所にも、迷わずに辿り着くことができる。同じ両親から生まれたというのに、この違いは何だ。羨ましすぎる。     
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