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「そう言われてもなあ。教えたところでわかんないだろ? 芸能人のだれだれに似てるって言っても、その芸能人の顔、わからないじゃん」
たしかにその通りだった。自分の顔を他人のそれに例えられても混乱するだけだ。
「それにしても。今日はひとりで帰ってこれたんだな。スマイルマートとっくに閉まってるじゃん。どうやって帰った来た?」
「友達に送ってもらった」
「へー友達いるんだ」
「そりゃ、友達ぐらい俺にだって」
嘘だった。大学に入ってから今まで、休日に会うような友人がひとりもできていない。恋人だった友香とは、大学ではべったりしていたが、王道のデートなんて数えるぐらいしかしていない。大学の帰りにご飯を食べに行くか、いつも同じラブホでセックスするぐらいだった。一年以上付き合っていたというのに。
「まあ、良かったわ。俺が駆り出されることもなくなるな」
尚人は沈黙した。将生にはだいぶ迷惑をかけている。一応その自覚はあった。
最寄りの駅から自宅まで、毎日尚人は決まった道を通る。普段はスマイルマートの電光掲示板を道しるべにして家に帰るので、それが消えていると困ったことになる。帰り道が分からなくなるのだ。夜の道で迷子になったときは、将生に電話をして迎えに来てもらっていた。スマホを買ってからは、グーグルマップにお世話になることが多くなっていたが。
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