兄は普通

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「友達できてよかったな。おまえの場合、頼れる人間がひとりぐらいいないとな」  なんとなく返事がしづらくて、尚人はTシャツ片手に部屋を出ようとした。が、呼び止められる。 「なお、悪いんだけどさ、ここのコード間違ってるみたいなんだけど分からなくてさ」 「あーいいよ、見せて」  将生の座っている椅子に寄り、机上にあるパソコンを眺める。黒いコマンドプロンプトに、白文字のソースコードが並んでいる。尚人はすぐに論理エラーを見つけ、兄に指摘した。 「さすがだなあ。プログラミングだけはおまえに勝てないかも」  兄からの称賛も、尚人には空しく響くだけだった。  ――だってあんたは、本気でやってないじゃん。  尚人は違う。大学を卒業したら、プログラマーになりたいと思っている。ゆくゆくはフリーになって在宅勤務をしたいという展望まであった。  将生なら、どんな職種にも就ける可能性がある。でも自分はそうじゃない。サービス業や営業職、人事の仕事は無理だろう。車の運転が必須な仕事も避けた方が良い。  失顔症と方向音痴。他人から見れば、たいした疾患ではないのかもしれない。命にかかわる病気でもない。だが、尚人にとっては、肩に重くのしかかって来るほどの欠陥だった。
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