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尚人はよそ見を一切せずに、三人の姿を目で追っていた。その結果、彼らとはぐれることもなく楽しい時間を過ごすことができた。どのアトラクションも一時間以上待たされるが、その間はしゃべったりスマホでゲームをしたりと、退屈を回避することができた。
「あ、ファストパス忘れた」
突然坂下が声をあげた。
レストランで昼食をとったあと、スモールワールドの前で一時間半待ちの列に並んだときだった。
「風無くーん。悪いんだけど、スプラッシュマウンテンのファストパス取ってきてもらえない?」
尚人の答えを待たずに、坂下が一日パスポートのチケットを手渡してくる。
「あ、俺が行くよ」
桂木と話し込んでいた五十嵐が、尚人たちのやりとりに気が付いて間に入ってくれた。
「え~? 五十嵐くんにはポップコーン買いに行ってほしいんだけど」
「男ばっかりこき使うなよ」
五十嵐がふざけた口調で言う。
「だって足痛いんだもん。サンダル履いてきたの失敗だった」
ほら見てみて、と坂下がトングサンダルを脱いで足を見せてくる。親指と人差し指の間が赤くなっていた。
「私もなの。踵の皮が剥けちゃった」
桂木はパンプスを履いていた。
「ポップコーン売り場ってどこ?」
五十嵐の問いに、坂下が首を傾げ、「さあ――そこらへん歩いてれば見つかるでしょ」と、アバウトな返事をした。
「しょうがないな」
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