グループデート

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 五十嵐が髪をかき上げ、尚人に「どっちに行く?」と聞いてくる。尚人は暫し逡巡してから、「スプラッシュ」と答えた。適当に歩いて見つけるポップコーン屋台のほうが、難易度が高い気がした。 「じゃ、それで」  五十嵐が列から外れ遠ざかっていく。三枚のチケットを手にした尚人もそれに倣って歩き出す。坂下たちの姿が見えなくなったところで、スマホを手に取り、マップを開いた。すぐに園内図が表れ、自分の居場所が赤く点滅する。試しに少し歩いてみると、ちゃんと反映して点滅が移動する。検索窓に「スプラッシュ」と入力すると、さくっと道順が赤い線で表示される。まっすぐに歩けば、目的の場所に到着することがわかる。  さすがに直進するだけの道で迷うことはない。尚人は鼻歌を歌いながら歩き、難なくスプラッシュマウンテンの前にあるファストパス発券機にたどり着くことができた。目的を達成したことで、緊張感が一気になくなり、尿意と便意を同時に覚える。 「トイレ行っとくか」  寄り道はキケン――と、用心深い自分が囁く。  ――でも、このアプリさえあれば、俺は無敵だと思うんだよね。  楽天的な自分が反論する。現実的に考えてみよう。今ここで我慢できても、行列に戻って待っている間に限界が来るだろう。結局はひとり列を抜けてトイレに行くことになる。今手洗いに行った方がぜったい合理的なのだ。 ――大丈夫。俺には強い味方がついている。     
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