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でも、トイレから出たとたん、自分がどの位置にいて、どこに向かって歩けばいいのかがわからなくなっている。だからアプリを開きなおしたのに。
ここに来て、尚人は初めて夢の国の景色を眺めることにした。さっきまでは、三人を見失わない様にと風景を楽しむ余裕がなかった。
周りを見渡すと、すぐ近くに回転しているダンボの姿が見えた。子供だましのアトラクションにも、長蛇の列ができている。少し遠くには、ポップコーンのワゴンが見える。微かに香ばしい匂いが漂ってくる。早く戻って、五十嵐が買って来たポップコーンを食べたいと思った。
日差しが強い。気温も高くなっている。あちこち歩き回るのは避けたい。こうなったら人に聞くしかない。尚人は気を取り直し、近くのベンチに座っている女に声をかけた。一人だったから、話しやすいと思った。
「すみません。ちょっと聞きたいんですけど」
「はい?」
声は優しそうだ。苛立った様子もない。ほっとする。
「ちょっと道を教えてほしくて――」
話している途中で、尚人は青ざめた。アトラクションの名称をど忘れしてしまったのだ。「すみません。アトラクションの名前わからなくて。あの、船に乗るやつで、人形出てきて、あ、室内のアトラクションなんですけど」
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