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仕舞には母親ともはぐれ、尚人は独りぼっちになった。大声で泣いても、兄と母はやってこない。通りがかった知らない大人に腕を引かれ、迷子センターまで連れていかれる。そこにもなかなか、ふたりは現れなかった。二時間以上経って、やっと兄と母は直人を引き取りに来た。それまではふたりで、遊園地のアトラクションを楽しんでいたのだ。
――俺は、誰のことも見つけられないんだ。
だから、誰にも見つけてもらえない。急な脱力感に襲われる。今日こそは大丈夫だと思った。でもダメだった。最後はやっぱり、個々の能力で決まるのだ。どんなに優れた媒体があっても、「絶対」じゃない。
尚人は座り込んだ。昨日の飲み会からずっと疲れを感じていた。本当はこんなところに来たくはなかった。少し――ほんの少し、楽しいと思ってしまったことが、悔しい。
「風無」
名前を呼ばれ、ハッとする。顔を上げると、赤いTシャツが目に映った。口を開けたものの、舌が動かなかった。
「やっぱりここだったな。動かないでいてくれて助かった」
「――なんでここだって、わかった?」
「音楽だよ。さっきここを通ったときに流れてた曲が、おまえと電話したときに聞こえてきたから」
――それって凄くないか?
お土産は帰る前に買うから、と言って、この道を立ち止まることなく通り過ぎたのだ。
「ほら、はやく行こう。走れば間に合う」
その言葉で、やっと尚人の顔は弛緩した。慌てて立ち上がり、五十嵐の前に立った。
「ありがとう」
見つけてくれて、嬉しい――と、心のなかで続ける。
「なんか、希望とかある?」
「え?」
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