肝試しは慎重に…

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「壁も天井も今にも崩れそうなのに……こんな中、呑気に肝試しをしてる若者達が心配でたまらなかった。 死んだとはいえ私はここの院長だ。この病院内で負傷者は絶対に出したくなかった……!」 握るこぶしに力が入る院長は、キッパリとそう言った。 そしてこうも続ける。 「だから私は肝試しの若者達をうまく怖がらせ、早く帰るよう、誘導し続けてきたんだ。 そしてたまに……本人の気づいてない病気を持った若者を見つけたら、その部位に黒いアザをつけてやる。後々そのアザを気にして病院に行けば早期発見になるだろうからね」 院長はジッと自身の手を見つめ、やがて目を細めた。 「さっきの若者も胃潰瘍ができていた……そんなにひどいものではなかったが、ストレスでも溜めていたのかな?」 院長は窓枠から降りると軽やかに歩き出した。 そろそろ夜が明ける。 「色々あったが、私の城であったT病院ともサヨナラだ。私は次に生まれ変わる事が決まっていたが、この病院が取り壊しになり安全が確保できるまで待ってもらってたのだ。いよいよだ。生まれ変わっても、また医学の勉強をして医者になるぞ」 そう言って生きていた頃も、死んだ後も、長年使ってきた院長室の扉を勢いよく開けた。 完全に夜が明け眩しい朝日が一気に院長の体を包みこんだ。 院長は楽しそうな表情をうかべ、キラキラと輝きながら窓から天へと昇って行った。 了
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