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「さあさあ、西川さん! 白状しちゃってくださいよ。恋に年齢なんて関係ないんですから」
「……そういわれても」
「結構ガード固いですね。じゃあ、好きかどうかは答えなくていいです。でも橋本さん素敵な人だし、きっとお似合いですよお。放っておくなんてもったいない!」
佐々木の訪問販売員のような口調に睦美は思わず吹き出しそうになった。けれど聞いていて決して心楽しいわけではない。むしろ不愉快だった。
若い女というのは、概して自分勝手で残酷だ。何を根拠にお似合いとか、人に期待を持たせることを言うのだろうか。
百歩譲って、聡子と橋本の両方の気持ちを知っていて、仲を取り持つというのであれば、わかる。それは彼ら両人のためだからだ。
だけど今は、自分たちの好奇心を満たすために、無責任なことを勝手に言っているにすぎない。どうせ、聡子をけしかけて、様子をうかがうつもりなのだろう。あるいは笑いものにでもするつもりか。
彼女たちが橋本を狙っていることは、睦美は知っている。普通ならライバルをけしかける真似なんてできやしない。
結局、彼女たちは聡子に勝ち目はないと、若い自分たちのほうが有利であると決め付けているのだ。そんな傲慢さが睦美には気に食わない。若いことがそんなにすごくて、偉いことなのかと思う。いくら若くたって、磨かなければペラペラの薄っぺらな人間でしかないのに、彼女たちはそれに気付かない。
困惑した様子で食事を続ける聡子に、二人はなおも「早くしないと誰かに獲られちゃいますよお」と囁き続けている。
「ちょっと。もう昼休み終わるわよ」
いい加減、神経に障った睦美は、佐々木と山本に腕時計を見せ付けた。ふたりとも「うそお」と言いながら、慌てて冷めかけのパスタをほお張り始める。温かいものは温かいうちに食べたほうが美味しいのに、彼女たちは喋るのに夢中で全然フォークが進んでいなかったのだ。
聡子はどこかほっとしたように眉尻を下げ、睦美に目配せした。どうやら感謝されているようだった。
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