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聡子が失恋したのは、数日後のことだった。
それも告白して玉砕するのではなく、橋本に婚約者がいることが発覚するという、なんとも苦い結末となった。
睦美たちは橋本の口から直接婚約を聞いたわけではなかったが、営業二課の社員たちが彼の結婚祝いの相談をしていることから、信憑性はきわめて高い。噂によると、橋本の大切な女性は彼の大学の同窓生だそうだ。
橋本に恋人がいる可能性はもちろんあったが、彼に一筋の希望を見出していた女性社員たちの落胆ぶりは絵に描いたようだった。
山本と佐々木も、魂が抜けたように、仕事に身が入っていない。といっても、彼女たちの場合、いつもそんな具合だから、あまり気にはならなかった。それに、きっと彼女たちはこの程度では心折れたりしない。たくましくも、すぐに次を探すだろう。
心配なのは、聡子のほうだった。
他の女性社員とは逆に、聡子は至って普通だった。あまりに普通すぎて、無理をしているのではないかとつい勘繰ってしまう。仕事の合間にこっそり聡子の様子を伺うが、落ち込んでいる様子もない。
むしろ、聡子は本来の調子を取り戻しつつあるように見えた。
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