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「佐々木さん、ちょっと」
目の前では、書類を渡しにきた佐々木が聡子に呼び止められている。
「なんですかあ?」
「あなたねえ、ここの計算間違ってるじゃない。それに日付も去年になってる。これ、ちゃんと確認したの?」
「はあい。すみませーん」
「はあい、じゃないでしょう。きちんと反省なさい」
聡子が真顔でぴしゃりと言い放つと、佐々木は急に青ざめ、動揺し始めた。まるで聡子の恐さを今、知ったかのように。
睦美から見れば、聡子の言い分が正しく、理にかなった叱責だと思う。だから別に恐いこともない。以前の彼女なら、もっとヒステリックにねちねちと怒ったものだが、ずいぶん変わったものだ。
お局にはもう戻らないだろう。睦美は直感する。叶わなかったとはいえ、彼女の恋は良い方向へと彼女を導いたのかもしれない。
向こうでは佐々木が山本に何か――多分愚痴だ――をこそこそ話している姿が見えた。穏やかな聡子に甘える形で順応してしまった彼女たちには何が起きたのかきっとわからないだろう。
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