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ついでに、さりげなく上司にもちかけた相談も意味をなさなかった。彼女に注意なんかしたら、百倍返しものだからだ。百倍というのはやや大げさだが、ヒステリックな金切り声で、真っ向から反論されるのは目に見えている。下手したら、会社相手に直談判しかねない。
「まあまあ、狭山さんも大目に見てあげてよ。西川さんは先輩なんだし」
上司は、へらへらとした顔で睦美をなだめただけだった。
先輩――たしかにそうだ。
睦美は入社して十年だが、聡子はその比ではない。世間で言うところのお局様だった。齢は五十近いと思われる。
むろん社歴や年齢でお局様と決め付けられるわけではないし、実際お局化していない彼女と同世代の女性社員だって働いている。前に聡子と同期だという女性と一緒に仕事をしたこともあるが、頼りになる素敵な先輩だった。
要は個人の資質の問題なのである。
だが、誰も注意できないからといって睦美はあきらめきれなかった。
一日の三分の一以上を過ごす職場環境のことなのだ。そう簡単にはあきらめられない。それに一番被害を被っているのは目の前に座る睦美なのだ。
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