向かい席の彼女の恋

2/18
前へ
/18ページ
次へ
 ついでに、さりげなく上司にもちかけた相談も意味をなさなかった。彼女に注意なんかしたら、百倍返しものだからだ。百倍というのはやや大げさだが、ヒステリックな金切り声で、真っ向から反論されるのは目に見えている。下手したら、会社相手に直談判しかねない。 「まあまあ、狭山さんも大目に見てあげてよ。西川さんは先輩なんだし」  上司は、へらへらとした顔で睦美をなだめただけだった。  先輩――たしかにそうだ。  睦美は入社して十年だが、聡子はその比ではない。世間で言うところのお局様(つぼねさま)だった。(よわい)は五十近いと思われる。  むろん社歴や年齢でお局様と決め付けられるわけではないし、実際お局化していない彼女と同世代の女性社員だって働いている。前に聡子と同期だという女性と一緒に仕事をしたこともあるが、頼りになる素敵な先輩だった。  要は個人の資質の問題なのである。  だが、誰も注意できないからといって睦美はあきらめきれなかった。  一日の三分の一以上を過ごす職場環境のことなのだ。そう簡単にはあきらめられない。それに一番被害を被っているのは目の前に座る睦美なのだ。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加