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悩んだ挙句、態度で示し、本人に気付いてもらう作戦に出た。
聡子が咳やくしゃみをしたときに、睦美のほうがとっさにハンカチで鼻と口を覆うのだ。我ながらちょっといやらしい作戦だとは思うが、背に腹はかえられない。
しかし、聡子はその行為に含まれるメッセージにはとんと気付かず、あろうことか「あら、狭山さん。つわり?」などとまったく笑えない冗談を吹っかけてきたのだった。
これには睦美も返す言葉もなく、開いた口がふさがらなかった。
聡子にまつわる問題は、何も咳エチケットに限った話ではない。
たとえば、まわりがあっと驚くような服装で出勤してくる。ゼブラ柄の超ミニスカートに生足だったときには、さすがに皆ドン引きしていた。いくら内勤とはいえ、あんまりだった。彼女の辞書には『咳エチケット』だけでなく、『ドレスコード』という文字もないのだ。
また、お局と呼ばれる人のほとんどがそうであるように、聡子もまた自分に甘く、他人に厳しいところがあった。特に若手社員には容赦なかった。被害を被るのはおもに、二十代の娘っ子たちだ。
彼女たちに否がないとは言い切れないが、それにしても厳しいを通り越して、恐ろしかった。さめざめと泣く女の子たちを見て、気の毒に思ったことも何度となくある。
できることなら、そんなものは見たくはないが、真向いでの出来事なだけに、自然と目に入ってきてしまうのだった。
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