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一緒に働いて三年、聡子の傍若無人ぶりを間近で見続けてきた。彼女が自分自身を何より優先させる人であることは間違いないはずだ。
そんな聡子が他人に対して特別な好意を持つことも、ましてやその人のために自分を変えるということも、睦美には受け入れ難かった。
彼女は決して他人に振り回されたりするようなタイプではない。そんな彼女だから独身を通しているのだと、心のどこかで思っていた。
だけど今、聡子は十歳以上も年下の男にすっかり心を奪われてしまっている。少女のように頬を赤らめながら。
睦美はもぞもぞとお尻を動かして姿勢を正した。メールの続きを打とうと、再びパソコンに向き合ったが、指が動かない。思いもよらぬ光景を目の当たりにしたせいで思考が停止していた。
聡子はといえば、いまだハンカチを手放さず、口元に添えたままだ。そういえば、ハンカチは今まで使わなかっただけで持ってはいたんだな、とどうでもいいことを考える。
うん、まあ、一時的なものだろう。睦美は思った。二、三日もすれば、いつものお局・聡子に戻るに違いない。
そう自分に言い聞かせ、仕事を再開した。
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