12人が本棚に入れています
本棚に追加
睦美の予想に反して、一週間が過ぎても聡子の様子はおかしなままだった。
レースのハンカチを口に当て、「くしゅん」とか「こんこん」とかごく控えめに咳やくしゃみをしている。おかげで冷たいものが空から降ってくることはなくなった。
それだけではない。
服装もシックな色合いのスーツや女性らしいドレープのきいたワンピースに変わった。今まで見たこともない服ばかりだから、新調したのかもしれない。
メイクは派手めのものから、落ち着いた深みのあるものへと変わった。見た目の印象というのは、ばかにできないものだ。人間に値打ちを付けられるなら、今の聡子はちょっとプレミアが付いた感じである。
あれだけ厳しく接していた若手の女子社員にもやさしくなった。教え方も、注意の仕方も、まるで別人だった。
(いったい、どうしちゃったんだろう?)
睦美はパソコンごしに聡子を観察し、首をひねらざるおえなかった。
本当にすべては恋する女ごころ――つまりは乙女ごころのなせるわざだというのだろうか?
どうにも腑に落ちない思いで、コーヒーに手を伸ばす。
最初のコメントを投稿しよう!