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乙女ごころなんて、これほど聡子に似合わない言葉はないとか、ちょっと気味が悪いとか思わぬことはないが、それは偏見だと睦美は自分を諫める。
恋する権利は年齢や性別、容姿に関係なく、誰にでもある。それが叶うかどうかは別として。そして恋というのはどうやら理屈ではないらしいということも知っている。世間一般のカップルを見てみれば、彼らは自分に釣り合うとか、見合うとか考えて相手を選んでいるわけではないことは一目瞭然だ。
だから、聡子が十歳も年下の男相手に恋に落ちたとしても、不思議ではない。そしてその恋によって彼女が変わったとしても、それは自然のなりゆきなのだろう。
頭では理解しているのに、睦美には靴を左右履き間違えてしまったような違和感がどうしても拭えない。別の誰かが聡子の皮をかぶっているのではないかとつい勘ぐってしまう。
それは多分、恋愛で人が変わるということが睦美にはピンとこないせいだ。恋をしたことがないわけではないが、いつもそれは他人事のようだった。自分は透明のガラス瓶の中に入っていて、すべてはその外側で起こっている。そんな感じだ。自分の気持ちすら例外ではなく、恋する自分をガラス越しにじっと冷静に見ている自分がいる。当然、恋にのめり込めるはずもなかった。
ある男は、「君との距離が縮まらない」とドラマのような台詞を口にして、睦美から遠ざかっていった。
そんな睦美に、聡子の気持ちを理解しろというほうが無理な話だった。
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