1人が本棚に入れています
本棚に追加
これだけを。これだけを言いたくて、彼女はこんなにも回り道をしなくてはならなかったのか。
私は差し出された手のひらと彼女の顔の間を、何回も視線を往復させながら、驚くとともに納得していた。なるほど。私たちは友達になれないわけだ。だって、彼女の顔はもうすっかり暗くなってしまった今でもわかってしまうほどに真っ赤なのだ。たったこれだけの一言でも、彼女にとっては何重もの勇気を降り注いでやっと口に出すことができるほどのものだったのだ。
だったら、私も答えよう。矮小で狭量な私だけど、せめて精いっぱいの勇気を込めて。
私は震えながら、彼女の手をゆっくりと、しっかりと握りしめた。
「バイバイ。ずっと憧れてたよ。お別れ会の歌、本当にありがとう……!」
最後は、二人とも笑顔だった。目からはとめどなく涙があふれてくる。けれど、お互い気恥ずかしそうに笑っていた。もしかしたら私たちはようやく、友達になることができたのかもしれない。もう全部、遅いのだけど。
最初のコメントを投稿しよう!