二章

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穂高は、空いたもう一方の手で顎を掴み、親指でゆっくりと下唇を撫でてくる。 穂高の真っ黒な瞳が、いつもと違う色を帯びてるように見えて、俺は声が出せなくなる。 『その可愛い口を、塞いであげようか?』 頭の中で警報が鳴っている。 このままでは不味い、逃げろ、と思っているのに、体は言うことを聞かない。 知らずに目が潤み出し、目の前の穂高が歪み始めた。 『なんてね、ちょっと脅しが過ぎたかな?こんな風に、春のことを辱めたい奴がいるってこと、ちゃんと肝に命じておいてね。』 俺が涙を零す直前で、穂高は手を離し、俺を解放した。 『千春前に、父さんが着替え中ニヤニヤして気味悪いって言っていたろ?アレも、春の事を「そういう目」で見てたんだよ。』 穂高は俺の目元をそっと拭いながら、いつもの優しい声で話す。 『神主が、俺のこと、その、犯したいと思ってたってことか?』 『そういう事。鈍感な春も可愛いけど、これからはそれじゃあ困るんだ。自分の身は自分で守れるようにならないと。村の人だけじゃない、春の美しさは、たとえ無理矢理でも奪いたくなるものだって、理解して。』 そんなこと、理解出来るわけがない。穂高の言っている事は身内贔屓の欲目であり、俺は能力以外は普通の人間なのだ。 『ここまでやっても理解してもらえないなら、より実践的に教え込むしかないんだけど…』 穂高が妖しい雰囲気を出し、俺の首筋を撫でる。 肌に指先が掠めた感触に身体が小さく震えた。 『わかった!すげぇ理解した!俺、超美人!気をつけるぞー!!!』 俺は首筋を擦りながら、そんなアホな事を叫んだのだった。 ―――――――――
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