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穂高は、空いたもう一方の手で顎を掴み、親指でゆっくりと下唇を撫でてくる。
穂高の真っ黒な瞳が、いつもと違う色を帯びてるように見えて、俺は声が出せなくなる。
『その可愛い口を、塞いであげようか?』
頭の中で警報が鳴っている。
このままでは不味い、逃げろ、と思っているのに、体は言うことを聞かない。
知らずに目が潤み出し、目の前の穂高が歪み始めた。
『なんてね、ちょっと脅しが過ぎたかな?こんな風に、春のことを辱めたい奴がいるってこと、ちゃんと肝に命じておいてね。』
俺が涙を零す直前で、穂高は手を離し、俺を解放した。
『千春前に、父さんが着替え中ニヤニヤして気味悪いって言っていたろ?アレも、春の事を「そういう目」で見てたんだよ。』
穂高は俺の目元をそっと拭いながら、いつもの優しい声で話す。
『神主が、俺のこと、その、犯したいと思ってたってことか?』
『そういう事。鈍感な春も可愛いけど、これからはそれじゃあ困るんだ。自分の身は自分で守れるようにならないと。村の人だけじゃない、春の美しさは、たとえ無理矢理でも奪いたくなるものだって、理解して。』
そんなこと、理解出来るわけがない。穂高の言っている事は身内贔屓の欲目であり、俺は能力以外は普通の人間なのだ。
『ここまでやっても理解してもらえないなら、より実践的に教え込むしかないんだけど…』
穂高が妖しい雰囲気を出し、俺の首筋を撫でる。
肌に指先が掠めた感触に身体が小さく震えた。
『わかった!すげぇ理解した!俺、超美人!気をつけるぞー!!!』
俺は首筋を擦りながら、そんなアホな事を叫んだのだった。
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