二章

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「はい、出来たよ。」 穂高は満足気に俺の髪を撫でる。 「…これで、完成か?」 前髪はオデコを半分隠す程度に真っ直ぐ切りそろえられている。 後ろは、耳にかかる程度に切りそろえられ、全体的に丸くかたどられていた。 「なんか、キノコみたいだ。」 「ボブヘアーっていって、最近の流行りなんだよ。」 ぼぶへあー…と、小声で呟いてみる。 何だか、思っていたのと違う気がする。 前髪は短すぎるし、後ろは長すぎる。 もっと男らしくカッコイイ髪型がよかったのだが。 「気に入らない?」 「うーん…いっそのこと、坊主とかどうだろう!」 俺は自分の容姿にこだわりがない。坊主になれば風呂も楽だし。それに、まったく全然少しも気にしていないが、坊主の男を犯そうとする奴もそうそういないだろう。 「だめ。坊主は絶対だめ。」 俺のぼぶへあーを撫でていた穂高の指が頭皮にくい込む。 「痛い痛い!指がっ!…このままでいい!坊主にしないから、離せっ!!」 暴力に屈した事は情けないが、流行りならば問題ない。もしかしたら坊主は古臭くて悪目立ちするのかも知れない。 「春。切った髪の毛、俺が持っていてもいい?」 切り落とされた茶色い毛束をひと房手に取る穂高。 「別にいいけど、そんなもん持っててどうすんだ?俺の髪触りたいなら、このぼぶへあーを触ればいいだろ?」 穂高はよく俺の髪を触る。短くなってしまったが、このぼぶへあーだってなかなかの手触りだ。 「切り落とした髪じゃなくて、俺の髪を撫でて!ってこと?春は甘えん坊だなぁ」 「なっ!別に、そうじゃない!ただ、なんとなく、なんでかなーと思っただけだよ!ほら、もう行くぞ!」 くすくす笑う穂高の手を取り、神社を出る。 その瞬間、楽しかった空気はなりを潜め、俺にも、穂高にも緊張が走る。 まずは車までが第一関門だ。 周りに人が居ないのを確認し、一気に走り出す。 避けるべきは、「神子様」として目撃される事。俺だとバレなければ、害にはならない。 フードが捲り上がらぬよう、首元の紐を握って足元を見る。 自分より大きい穂高の靴の踵が、前へと進んで行く。俺は、穂高に置いていかれぬよう、必死に足を上げた。 .
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