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「はい、出来たよ。」
穂高は満足気に俺の髪を撫でる。
「…これで、完成か?」
前髪はオデコを半分隠す程度に真っ直ぐ切りそろえられている。
後ろは、耳にかかる程度に切りそろえられ、全体的に丸くかたどられていた。
「なんか、キノコみたいだ。」
「ボブヘアーっていって、最近の流行りなんだよ。」
ぼぶへあー…と、小声で呟いてみる。
何だか、思っていたのと違う気がする。
前髪は短すぎるし、後ろは長すぎる。
もっと男らしくカッコイイ髪型がよかったのだが。
「気に入らない?」
「うーん…いっそのこと、坊主とかどうだろう!」
俺は自分の容姿にこだわりがない。坊主になれば風呂も楽だし。それに、まったく全然少しも気にしていないが、坊主の男を犯そうとする奴もそうそういないだろう。
「だめ。坊主は絶対だめ。」
俺のぼぶへあーを撫でていた穂高の指が頭皮にくい込む。
「痛い痛い!指がっ!…このままでいい!坊主にしないから、離せっ!!」
暴力に屈した事は情けないが、流行りならば問題ない。もしかしたら坊主は古臭くて悪目立ちするのかも知れない。
「春。切った髪の毛、俺が持っていてもいい?」
切り落とされた茶色い毛束をひと房手に取る穂高。
「別にいいけど、そんなもん持っててどうすんだ?俺の髪触りたいなら、このぼぶへあーを触ればいいだろ?」
穂高はよく俺の髪を触る。短くなってしまったが、このぼぶへあーだってなかなかの手触りだ。
「切り落とした髪じゃなくて、俺の髪を撫でて!ってこと?春は甘えん坊だなぁ」
「なっ!別に、そうじゃない!ただ、なんとなく、なんでかなーと思っただけだよ!ほら、もう行くぞ!」
くすくす笑う穂高の手を取り、神社を出る。
その瞬間、楽しかった空気はなりを潜め、俺にも、穂高にも緊張が走る。
まずは車までが第一関門だ。
周りに人が居ないのを確認し、一気に走り出す。
避けるべきは、「神子様」として目撃される事。俺だとバレなければ、害にはならない。
フードが捲り上がらぬよう、首元の紐を握って足元を見る。
自分より大きい穂高の靴の踵が、前へと進んで行く。俺は、穂高に置いていかれぬよう、必死に足を上げた。
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