二章

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穂高が居なかったら、俺は死んでいたかも知れない。 穂高が居たから、俺は生きていられた。 穂高が居たから、俺は生きて行きたいと思えた。 出会った時、穂高は22歳だった。 東京の大手企業へ就職が決まっていたのに、俺の側に居ることを選んでくれた。 穂高はカッコイイし、優しいし、本来ならば今頃結婚して、幸せな家庭を築いていたかも知れない。 頭がいいから、仕事で出世して、全国を飛び回ったりしていたかも知れない。 穂高の可能性に満ちた10年間は、俺が奪ったのだ。 穂高を思い、目が霞み出す。 穂高は、俺みたいな厄介な子供の面倒を、見させていいような人間じゃないんだ。 10年も、奪ったじゃないか。 俺から解放してあげなきゃいけないんだ。 「春、着いたよ。」 俺がぐるぐると考え事をしてる間に、第一関門を突破していたらしい。 「春!?どうしたの、何で泣いてるの?足が痛かった?」 穂高は俺の頬を包み、狼狽える。 「なぁ、穂高。」 ここで言わないと。 さよならしないと。 「穂高、これまで一緒に居てくれてありがとう。」 俺は深呼吸をして穂高の真っ黒な瞳を見つめる。 「ふふ、改めて言われると照れるね。」 柔らかな笑みを浮かべる穂高。 これからは、1人でいいって言わなきゃ。 共犯者になる前。 何事もなく、日常に帰れるうちに。 「穂高、これからも、よろしくな。」 でも俺は、この手を離すことが出来ない。 だって俺には、穂高しかいないから。 涙がまた零れた。 泣く資格のない俺の涙を、泣いていいはずの穂高が笑顔で拭う。 その笑顔は、何だか苦しそうに見えた。 「さぁ、車に乗って?初めてのドライブだし、春には笑ってほしいな。」 穂高が笑ってほしいと言ってくれたから、俺は笑う。 穂高が欲しい物は何でもあげる。 だから、もう少しだけ側にいて。 .
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