二章

9/12
前へ
/87ページ
次へ
「そうそう、春に渡さなきゃいけない物があるんだ。」 後部座席の紙袋を取るように言われ、後ろを振り返る。 そこには、小さな青い紙袋が一つ置かれていた。 「封筒は、そのまま春のリュックに入れておいて。今はまだ開けなくていいよ。」 穂高の言う通り、パンパンに膨らんだ茶色い封筒をリュックにしまう。 「もう一つは、俺から春へのプレゼント。開けてみて。」 紙袋の中には、リボンがかけられた四角い箱が入っていた。 手のひらより少し大きいその箱を、ゆっくりと取り出す。 赤色のリボンの端を、ゆっくりと引っ張る。 解けたリボンをどうしたらいいのか解らず、綺麗に畳んでポケットにしまった。 そしてまた、ゆっくりと箱の蓋を開ける。 そこには、手触りのいい革素材の財布が入っていた。 「こ、これ!財布だろ?俺が貰って、いいのか?」 生まれて初めて手に取った財布は、紺色の革で出来たシンプルな2つ折りの物だった。 「もちろん。春のために選んだんだよ。中、開けてみて。」 俺は、手に当る皮の感触を楽しみながら、スナップボタンを外す。 「ほ、穂高!お札が入ってる!」 「ふふ。喜んで貰えたみたいでよかった。これから、無一文というのも心許ないからね。それは春のお金だよ。大切に使ってね。」 財布の中には、一万円札が3枚と、千円札が5枚入っていた。 「がま口を開くと小銭も入ってるから、開ける時はお金を落とさないように気をつけて。」 俺は初めて手に入れた自分の財布に興奮し、それから2時間、延々と財布を触り続けた。 そして、このポケットがカッコイイだろ!紺色は男らしい色で俺に似合う。と、穂高へ財布自慢を繰り広げ、酔うことなくサービスエリアにたどり着いたのだった。 .
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加