二章

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「あ、穂高に何食いたいか聞くの忘れた。」 ニヤニヤを収めた俺は、建物に入る直前で立ち止まった。 さっきは慌てていたから忘れていたが、せっかく買うなら穂高が食べたいものを買っていきたい。 俺は、財布を使いたい気持ちをぐっと堪えて、来た道を引き返す事にした。 しばらく歩くと、乗ってきた車の外に、穂高の姿を見つけた。 俺は、穂高に気付かれる前に、その場にしゃがみ込んで身を隠す。 「後ろから回り込んで、びっくりさせてやろう…」 さっきからかわれた仕返しをしようと、細心の注意を払い、車に近づく。 車と同じ方を向いて、運転席のドアに肘を着いた穂高が電話している事に気付いたのは、俺が丁度車の真後ろにたどり着いた時だった。 「写真、確認してくれました?撮影したの、あなたの部下ですよね?少しは信用して欲しいですが、まぁいいでしょう。部下の方からも報告が行っているとは思いますが、今のところは順調ですよ。彼も俺には気を許してますし、逃げ出すような素振りは全くありません。」 いつもの柔らかな口調ではなく、冷たい声音は、どことなく神主に似ていた。 「彼をあなたに引き渡す為に、2年掛けて下準備したんです。失敗するわけが無いでしょう。」 穂高は誰の話しをしているんだろう。 まさか、俺じゃ、ないよな? 「このサービスエリアに着いたら。と、いうのが約束ですよね。前金の3千万円、しっかり振り込んで下さいね。」 さっきまで一緒に笑っていたのに。 これからも一緒だって、…あれ? 穂高は1度だって、俺とこれからも一緒に居ると言っただろうか。 「後3時間もすれば、そちらに到着します。えぇ、千春をどうしようとそちらの勝手です。解剖でもなんで、お好きにして下さい。」 そうか、穂高は俺を売るのか。 そう理解した瞬間に、俺はその場から走り出した。 穂高のためなら何でも出来ると思った。 だけど、それは、共に生きる中での話で。 結局俺は、自分の身が一番可愛いんだ。 穂高の為になんて、全部嘘で、ただ俺が穂高の隣に居られる理由が欲しかっただけなんだ。 サービスエリアの駐車場から逃げられるわけない。 それでも俺は、闇雲に走った。 .
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