一章

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そうして俺は神社に祀られる「神子様」となった。 学校に行く事もなく、両親と会うこともなく、俺は田舎の小さな村の神社で引きこもり生活を送った。 中二病でも患っていれば、あの状況を存分に楽しめたのかも知れないが、 小さな村には漫画やラノベなどの娯楽は少なく、そもそも文字を読めるようになったのは、この古ぼけた神社に入ってからだ。 「今日から君に勉強を教える、穂高です。宜しくね。」 穂高と名乗ったその男は、整った顔に柔らかい笑みを乗せ、部屋に入ってきた。 「俺はね、子供は元気に外を走り回って、たくさん遊ぶべきだと思っているんだ。」 しゃがみこみ、俺の両手を自らの手で包み込んだ穂高の瞳は、悲しげに揺れていた。 「でも僕、外に出ちゃだめって…」 「うん。父さんにはそう言われていると思う。あの人は、君を閉じ込めておきたいんだ。でも、君が秘密にすると約束してくれるなら、僕が君を外へ連れ出してあげる。」 穂高は、俺に勉強と生きて行くために必要な知識を教えてくれた。そして月に何度か外に連れ出し、一緒に遊んでくれた。 俺は、穂高が居ることで、絶望せずに日々を送る事が出来た。 両親に会えない寂しさも、優しかった村の大人達が俺に傅く恐怖も、穂高が癒してくれたのだ。
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