一章

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鏡の前で、帯の位置を確認し、扉を3回ノックする。 關が外れる音がし、扉が開かれる。 「本日は、患った肺を治してほしいという依頼です。今の医療では治療が難しく、神子様を頼ってこの村までやって来ました。」 依頼主の待つ部屋へと歩きながら、神主の説明を聞いた。 襖の前に立ち、軽く深呼吸をする。 神主がゆっくりと襖を開け、俺を中へと促す。 今回の依頼主もまた、白髪の老人だった。 俺は、こちらを凝視していた老人の視線を無視し、目の前に腰を下ろした。 「これから、お前の肺を治す。」 そう一言告げ、老人の胸元に手を当てながら目を瞑る。ひゅうひゅうという浅い呼吸音を聞きながら、心の中で「治れ」と唱えた。 老人が、「うっ」と小さく唸った。呼吸音が正常になったのを確認し、手を離す。 「神子様…!!ありがとうございます。」 自分の胸に手を当てながら頭を下げる老人。 俺は緊張を解き、薄く微笑んだ。 よかった。治ったんだ。 俺は祀られているこの環境を喜んではいない。 でも、苦しんでいる人を救えることには、少なからず喜びを感じている。 「神子様…半信半疑ではあったが、あなたの力は本物だ…。こんな辺鄙な村ではなく、私と共に東京へ参りませぬか?あなたの力を求める者は山ほどおります。どうか…」 「何をしておるのだ!!神子様をここから連れ出そうとは…。おい、穂高!この者をつまみ出せ!」 白髪の老人は穂高により部屋から追い出されてしまった。 勧誘は珍しいことではない。 「神子様。神子様の力はこの神社でこそ発揮できるものです。ここを出ては、神子様はただの世間知らずな子供。」 「解ってる。俺はここを出て行くつもりは無い。疲れたから部屋へ戻る。後で穂高を寄越せ。」 俺は神主の言葉を受け入れた振りをし、部屋へと戻った。 .
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