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返事はない。
どうしたものか?と思っていると、今度は盛大にガラガラと音がして、僕はまた体をビクリとさせた。
たばこ売り場の小さなシャッターが開いていた。
「これ、どうだい?」
百貨店で売っていそうなふわふわとした暖かそうなマフラーがつき出された。
どう考えても1000円やそこらで買えそうな代物じゃない。
断りにくいし、どうしようかと考えていると、ガラス窓に宝くじの文字が見えた。
僕は思わず「宝くじ、買います」と言ってしまった。
おばあさんは目を丸くした後、「1枚300円だよ」と言った。
「じゃ、10枚ください」
ランニングついでに冷蔵庫の買い出しで使おうと持っていたお金で買う。
「はいよ、あんたに福の神が来ますように」
くじの上で金色の打出の小槌のようなものが振られた。
おばあさんはカラスの足跡がくっきり出るぐらいニッコリ笑って、宝くじとマフラーを渡してくれた。
シワだらけの手は僕の手より暖かかった。
僕は来た道を戻った。おばあさんからもらった優しさと温もりを抱えて。
それから一ヶ月経って宝くじの結果が発表された。
一等前後賞で当選金は7億だった。
老後の心配どころか、会社を辞めてもいいぐらいだった。もちろんこの不景気な時代にそんな無謀なことはしないが。
お礼を言おうとおばあさんの店を探したがあれから二度とたどり着くことはなかった。
fin
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