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想像していたよりも、ずっと。
光と目が合うと、朱里が頭を下げた。
「今日は、どうもありがとうございます」
光も軽く会釈を返す。視線を上げると、朱里が笑っていた。
「似てないわ」
「え……?」
「清正くんのお友だちに何度か言われたんです。私とあなたが似てるって……。でも、あなたのほうがずっと綺麗」
光は首を振った。違う。逆だよ、と思うが、言葉がうまく出てこなかった。
「ひかゆちゃんも、くゆ?」
朱里に抱かれたまま、汀が光を振り返る。
「行かないよ」
短く答えると、汀はガッカリした顔になった。
「汀、今日はママとデートでしょ? デートは二人でするのよ?」
おしゃれしてきてくれて嬉しいと言って、朱里が汀の頭を撫でる。薬指に嵌めた指輪の石がきらきらと光った。
その左手で、肩にかけたトートバッグを器用に探って小さな袋を取り出した。
「これ、よかったら食べてください。うちの近所の和菓子屋さんのなんですけど、とっても美味しいんです」
光は黙って、小さな紙袋を受け取った。
汀が「どややき?」と聞く。朱里が「そうよ」と頷いた。
「夕方、駅に着いたら電話しますね」
そう言うと、朱里は汀を連れて改札の中に消えた。細い背中が見えなくなってから、スマホの番号を知らせていないことに気付いたが、上沢の家にかけてくるだろうと思ってそのままにした。
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