【12】

3/11
2917人が本棚に入れています
本棚に追加
/178ページ
 想像していたよりも、ずっと。  光と目が合うと、朱里が頭を下げた。 「今日は、どうもありがとうございます」  光も軽く会釈を返す。視線を上げると、朱里が笑っていた。 「似てないわ」 「え……?」 「清正くんのお友だちに何度か言われたんです。私とあなたが似てるって……。でも、あなたのほうがずっと綺麗」  光は首を振った。違う。逆だよ、と思うが、言葉がうまく出てこなかった。 「ひかゆちゃんも、くゆ?」  朱里に抱かれたまま、汀が光を振り返る。 「行かないよ」  短く答えると、汀はガッカリした顔になった。 「汀、今日はママとデートでしょ? デートは二人でするのよ?」  おしゃれしてきてくれて嬉しいと言って、朱里が汀の頭を撫でる。薬指に嵌めた指輪の石がきらきらと光った。  その左手で、肩にかけたトートバッグを器用に探って小さな袋を取り出した。 「これ、よかったら食べてください。うちの近所の和菓子屋さんのなんですけど、とっても美味しいんです」  光は黙って、小さな紙袋を受け取った。  汀が「どややき?」と聞く。朱里が「そうよ」と頷いた。 「夕方、駅に着いたら電話しますね」  そう言うと、朱里は汀を連れて改札の中に消えた。細い背中が見えなくなってから、スマホの番号を知らせていないことに気付いたが、上沢の家にかけてくるだろうと思ってそのままにした。
/178ページ

最初のコメントを投稿しよう!